大判例

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東京高等裁判所 昭和35年(ネ)1115号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決要旨〕判示の事実関係のもとに、他人との間にすでになされた売買契約を解除して、その家屋の居住者に売ることにした契約は、前買主との間の契約を円満に解消させることを前提としたものであり、手附倍返しによる解約等の法律的措置を講じて右契約を解消するが如きは、契約当時その当事者間の念頭になかつたものと認めるのが相当である。

〔判決理由〕控訴人は、被控訴人が由井との間の売買契約の解約のための努力をしなかつた旨主張するが、原判決の理由に認定された経過の示す通り、被控訴人は由井との間の売買契約を合意解除するについては相当の努力をつくしたものであることが認められるところであつて、なお控訴人らと被控訴人間の本件売買契約の際、被控訴人が由井との間の契約を解除するについては、手附倍返しによる解約等の法律的措置をとり、これを実現すべき旨までを約した趣旨を供述するものと見られる原審証人(省略)の証言並びに原審における控訴本人の供述は、被控訴本人の原審及び当審供述によつて認められる、被控訴人と由井が父子二代に亘つて懇親の間柄にあつた事情に右被控訴本人の供述を総合して考えれば到底これを信用できないところと判断せられ、結局被控訴人と控訴人ら間の本件売買契約は、被控訴人が原審及び当審において供述する通り、被控訴人が由井との間の契約を円満に解消させることを前提としたものであり、法律上の措置を講じて右の契約を解約するが如きは、契約当時その当事者間の念頭になかつたものと認められるところであるからそのような措置を講じなかつたとしても、被控訴人に債務不履行の責があるものとは認めることはできない。

なお被控訴人が控訴人らとの本件契約を締結するについて、先にせられた由井との間の売買契約が合意解除となることを条件としながら、予め由井との間の合意解除の成否につき、由井の意向を質す等の措置もとらず、ただその解約に努力することを約したのみで、控訴人らに対して三日間内に代金一六〇万円中の一二〇万円の調達を求めてその調達をせしめた点については、被控訴人の控訴人らに対する態度に、いささか強引なものがあり、また一方的に偏したものがあるかの見方がないではないかも知れない。しかし、(証拠―省略)を総合すれば、控訴人が本件家屋に当初入居したのは被控訴人の承諾を受けてのものではなく、その賃借人であつた永井祐造からの無断転借によるものであつたこと、従つて、控訴人は何回となく被控訴人にその明渡を約しながらその延期を求めていた関係にあり、その後被控訴人も永井が明渡の上はこれを控訴人に貸与する意向を示したこともないではなかつたが、控訴人との間に判然たる貸借関係の成立を見る前に、由井からの買受申込を受けてこれを承諾し、控訴人らに対する明渡の請求はこれを被控訴人の責任として本件土地建物を由井に売却し、内金一五万円を受領するに至つたこと、その後に至つて、このことを知つた控訴人らから相当執拗に右土地建物買受方の申込みを受け、殊に昭和三二年五月二八日附の内容証明郵便をもつては、代金の金策は既にできているとまでいわれた上、遠縁に当る浅川康次郎の斡旋もあつて、強く控訴人らに対する売渡方の懇請を受けるに及び、若し確実に控訴人らが代金を支払うものなれば、また由井との間の契約が円満に解消できる場合は、現在の居住者である控訴人らにこれを売却してもよいと考えることとなつて(この被控訴人の考えのうちには、控訴人らに対する明渡請求の困難さのことも考慮せられてのことであろう。このことは本件口頭弁論の全趣旨を通じてこれを認めることができる。)、本件控訴人らとの売買契約となつたものであるが、果して控訴人らが右代金の支払をし得るか否かには多少の不安もあり、且つは前記の内容証明郵便では控訴人らは既にその用意もできているということでもあつたので、それではその金を早速作つてくれ、それができたとあれば由井との間の契約の解除については、できるだけの努力をするからということ(そして被控訴人がその努力をしたことは前認定の通り)で、本件被控訴人、控訴人ら間の売買契約が成立するに至つたものであることが認められる。従つて、右状況下で控訴人らへの売却方を強く懇請せられた被控訴人として、控訴人らに内金一二〇万円の用意方を求めたことは必ずしもこれを責めるに当らないことであり、また右状況下で、由井との間の契約が合意解除できた場合はとの条件附でその売許方を承諾した被控訴人としては、予め由井との間の解約の可能性についてその打診をしなかつたことにも、その過失があるものとも認め難い。従つて、控訴人の予備的請求原因である不法行為による損害賠償の請求もこれを認めることはできないものといわざるを得ない。(山下朝一 古原勇雄 田倉整)

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